あとがき・のようなもの

  • 2018.11.28 Wednesday
  • 20:52
思ったよりも長くなってしまって、自分でもびっくりでした。
まさか全5章に渡るとは(笑)。
妄想が激しくて、もし全部お読み頂けた奇特な方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございます。
でもまあ私は楽しかったです。

そもそもの始まりは高橋大輔氏とランビエール氏のコラボ、あのAnthemを見た事でした。
同時に同じ曲を歌うのでも、演奏するのでも、また滑るのでもそうだと思うのですが、両者の違いがくっきり際立つ場合と非常に似通う場合があると思うのですが、個人的に素晴らしいと思うのはそのコラボレーションに置いて両者が溶け合いながらもそれぞれの本来の素晴らしさを失わない場合ではないかと思います。

私はあのAnthemを見た時、なんとも言えない心地よさと言うか、とても似ていてでもやっぱり違う、その違いがズレではなくて綺麗な和音の様な差を感じました。そしてそれは何となく仲の良い兄弟みたいだなと思ったのです。
発揮される個性は違っても同じ血が流れている様な。
そしたら、あれですね、多分高橋氏の衣装が初期月光の王子様風味だったからでしょうね、なんか王子の兄弟って言うのが出てきてしまいました。

お読み頂いた奇特な方の中には、既にお気付きの方もいらっしゃるとは思いますが、あの話は骨となるストーリーは自作ですけれども、あちらこちらのエピソードは古今東西の神話や古典から引っ張り出したものです。
生死の泉はゼウスの妻ヘラが毎春に水浴びして前年年取った分を洗い流すという「春の泉」からですし、死せる国に姫が入国する際の術返しは古事記のイザナギとイザナミの黄泉の国のエピソードから、また黄泉の国を与えられた月読命は天照と大国主に挟まれた神様だったかと記憶しています。
死せる者の国の女王は、私の中でダースベイダー+ファムファタールなイメージで出来上がってしまいました。女王の髪を黒褐色としたのは、メリル・デイヴィスさんを念頭に置いたせいです。
高橋氏の好きなスケーターだからと言うのもありましたが、LOTFで見せて頂いた色気はファムファタールと呼ぶのに十分かと思いまして、頭の中で悪く美しく踊って頂きました。

あとは何とは無しにバレエの進行を軽く意識してみたりはしましたが、そちらへの造詣は全く深くありませんので、見当違いな所もあるかもしれません。悪しからず。

言葉を使わないフィギュアスケートにおいて、見ている側に正確にその場を状況を伝えるのは難しい事かと素人ながらに思います。
でも予め決められた動きを取り入れれば、見ている側にも大まかには伝わるのではと考えています。
例えば対象者にまっすぐ近づいたら好意の表れとか、左から回り込んだら敬意を、右からなら友愛とか。
背後から近づくのは敵意の表れとかですね、大体の相関図は分かってもらえるのでは…妄想果てしなくてすみません。

きっかけはAnthemでしたが、多分氷艶を見なければここまで踏み込んで考えなかったと思います。
まああの私が考えたかどうかなど塵に同じなんですけども、私が、ど素人の私が考え得るのですから、そう言う構想を抱いているプロフェッショナルも少なからずいらっしゃるのではと思っています。

正直今シーズンが始まる前位から、体調を崩してしまったので、中々応援の波に乗れないでおりました。つい手慰みに妄想を垂れ流してしまいましたが、最近だいぶ回復してきたので、全日本は正座して応援しようと思います。テレビ前でごめんですが。
時をかければかけるほど、彼と音楽が隙間なく密着していく様子を私は初めてリアルタイムで見ています。
そうしてやっと、以前からずっと応援してきたファンの方々の気持ちが、僅かながら理解出来たような気がします。
全日本が最後なんてもったいないオバケが出ますよ…。
こうなったら引退してからも毎年2プロ作ったらどうでしょうか、絶対見に行くので!なんちて。

四季の国・最終章

  • 2018.11.24 Saturday
  • 01:27

冬の終わりが近づいておりました。
秋の王妃は王家の庭で春であったはずの一角を見つめ、ため息をつきました。
春告の王子が亡くなった日から、王家の庭の春の一角が、地はひび割れ赤く乾き、木々は立ち枯れて見る影も無くなってしまったのです。その日以来ずっと、王家の庭から春が消えたままなのです。
そこへ王妃の姿が見えないので、心配して探しに来た冬の王、夏の王子そしてクロエがやって来ました。クロエはすんなりと薔薇のアーチを潜ります。

あの日春告の王子が刺されてから気を失ってしまったクロエは、目を覚ましてから事の全てを知らされ一時は食事も喉を通らない程に衰弱しました。
哀しみに暮れたクロエはこの喪失を分かち合えるものは、共に育った夏の王子以外思い浮かびませんでした。
そして久しぶりに城を訪ねた時、王家の庭の中に冬の王、秋の王妃、夏の王子を認めました。秋の王妃は泣き崩れておりました。心配になったクロエは思わず庭へと駆け寄って、王妃を慰めました。王妃は朽ち果てた春の一角を見て、泣いていたのです。そしてその時誰もがすぐには気がつきませんでした。クロエが薔薇のアーチに弾かれる事なく、王家の庭へと入る事が出来ていた事に。
それが意味することを皆分かっていました。そしてその場で夏の王子はクロエに求婚したのです。

秋が過ぎ冬が来て、本来ならば春告の時期がすぐそこまで来ていました。
しかし春告の王子はもうおりません。
クロエが薔薇のアーチに受け入れられた時、王家の人々も国の民もクロエが“春告の妃”になるのだと誰もが思っていました。しかしクロエにはいつまで経っても体のどこにも紋章は現れなかったのです。
王家の庭で誰もが口に出さずとも、春の到来をどうするものか案じておりました。
するとアーチの外側にアルフレッドが来ておりました。
アルフレッドは王家の人々に向かい、皆様案ずる事はありません、春は必ず告げられます、と言いました。
しかし今までとは少し違う形で行われるかもしれません、とも言いました。
そして冬の王に向かい、そろそろ私も城を去ります、と言うのです。
王が訳を尋ねると、私は実は金の雄鹿です、10年前本物のアルフレッドは亡くなっており、私が体を借りておりました、と告白しました。雄鹿は泉の出る年に備え、雄鹿を傷つけた冬の王に災いが及ばぬようにと側に仕えたつもりだったが、力及ばず申し訳ないとも言いました。
冬の王はアルフレッドとまた金の雄鹿の長年の献身に感謝しました。
そして雄鹿は一礼するとアルフレッドの姿から金の雄鹿に姿に戻り、風のような素早さで軽やかに駆けていきました。

そして金の雄鹿が去ってから数日、夏の王子が慌てて王と王妃、それからクロエを王家の庭へと呼びました。
皆が急いで庭へ駆けつけると、あの乾いた春の地に花の蕾が一つありました。それはあの春告の王子の背中に刻まれた「名も無き花の蕾」にそっくりでした。
皆が目を見開いて蕾を見つめていると、ゆっくりとその蕾が開いていきます。そして同時に枯れた春の一角が、緑の若草に覆われていきました。
すると城の者が王家の人々を呼ぶ声がします。聞くと雪に覆われた大地のあちこちでも、あの「名も無き花の蕾」が地面から顔を出していると言うのです。
そしてそれは少しずつ雪を溶かし、黒々とした地面が見えたかと思うと瞬く間に若草の絨毯が広がっていきました。
王家の人々も国の民も皆思わず顔を綻ばせました。
そしてその時、花から花へと飛ぶ様に舞う春告の王子の姿を確かに皆目にしました。春告の王子は確かに春を告げに来たのです。
そして国の隅々まで春を告げ終わると、冬の王、秋の王妃、夏の王子そしてクロエの周りをくるりと舞って、優しく微笑み、そして消えて行きました。

その後冬の王は全ての咎を一人で受けて亡くなった春告の王子を思い、そもそも季節を齎す力が災いの源であったとして、自らの季節を齎す力を人より以前からあったものに託す事にしました。
秋の王妃と夏の王子もまた同じ気持ちでした。
冬の王は風に、秋の王妃は木々に、夏の王子は太陽に、それぞれ力を託し、風と木々と太陽は役目を果たす事を約束してくれました。
今となってはなぜ季節が齎されるのか誰もが気にも止めません。花が綻び始めたら春を感じ、日差しの強さで夏を思い、落ち葉を踏んで秋を聞き、風の冷たさで冬を知るのです。
季節の王家もその後、幾世代にも渡り栄えますが、今は統治者として政を行います。季節を齎す力を返して以降、王家の庭は一度に全ての季節を備える力を失って、誰でも入れるようになり、今は美しい庭園として皆から愛されております。王冠に掲げられた雫を象ったダイヤの由来についても、今は詳しく知る者もありません。
しかし毎年厳しい冬の終わりを告げるあの名も無き花はいつしか「クロッカス」と呼ばれる様になり、今なお人々から親しまれております。
そして城の庭園に咲くクロッカスだけは他に咲く色とりどりのクロッカスとは違い、あの姫君の髪の色と同じ黒褐色の花を咲かせます。生きて結ばれることは叶わない二人でしたが、春を告げる花としてこれからも永遠に共に咲き続けるのです。(了)


四季の国・第4章

  • 2018.11.23 Friday
  • 23:47

冬の王の間では夏の王子と春告の王子の身を案じ狼狽える秋の王妃を慰めるため、クロエが側に付いておりました。
そこへ兵が取り乱した様子で飛び込んできました。そして王子二人と死せる者の国の女王が王の間へとやって来る事を知らせました。知らせを受けた冬の王とアルフレッド、その他の重臣達も王の間へと駆けつけました。
固唾を飲んで待つ一同の元にまず夏の王子が、続いて死せる者の国の女王と捕らえられた春告の王子が現れました。
女王は手下の者に春告の王子の拘束を解かせ、部屋の外で待つ様に命じました。
それから冬の王の間へと集う一同を、ぐるりと見回すと、女王の視線の冷たさに皆思わず体が固まってしまいました。
冬の王が名乗り出て、如何なる目的があってこの四季の国を襲撃したのか問いました。女王はゆっくりと部屋の真ん中まで歩を進め、王に言いました。
よもやお忘れではあるまいか、30年前泉の辺りであと少しで愛を誓おうとした事を、と。王はもちろん覚えておりました。それから女王は続けて言いました。
あの時お前が飲んだ泉の水は、お前からその王妃の体を通って、この愚かな王子の体へと入り私の意のままに操ることが出来た、礼を言おう、と言ってさもおかしそうに笑いました。
冬の王は自らの些細な行動が、我が息子に悲劇をもたらしたと知り、目の前が真っ暗になりました。そして女王に向かい、我が命と引き換えに家族と人民を救って欲しいと願い出ました。
しかし女王はこの願いを一笑に付し、我が願いはこの国とこの国の民全てが絶望の軛に繋がれる事、生きても地獄死んでも地獄、苦しみと飢えの中であげるお前達の呻き声を永遠に聞き続ける事だ、此の期に及んで助かる道などあるものか、と冬の王に向かって恫喝しました。
その場にいた全員が女王の狂気の剣幕に震え、慄きました。
そして女王は玉座を指し、あの玉座はもうお前のものではないと冬の王に向かって言い、それから玉座に向かって歩きだしました。そうはさせまいと夏の王子は女王に向かって斬りかかろうとしました。
その時です。なんと春告の王子が女王と夏の王子のあいだに割って入りました。
そして兄にこの人を殺さないでくれ、と懇願します。夏の王子もその場にいた人々も、ましてや死せる者の国の女王でさえ、この春告の王子の願いに驚きました。
夏の王子は春告の王子が理解できず、弟に退けと命令しますが、春告の王子は聞きません。そして私はこの人に永久の愛を誓ったと言うのです。
そこでアルフレッドが春告の王子に、それはあの女王の術に惑わされていたが故です、真実の愛ではありませんと言いました。
それでも春告の王子は首を横に振り、確かに呼ばれはしたが、女王を一目見た時既に私はこの人を愛したのだ、と言い張りました。この告白に一同はどよめきました。そしてそのどよめきの中、クロエの心は一人全く別の衝撃を受けておりました。
そしてまた女王も既にこの王子には術を掛けていない筈、と顔色こそは変えませんでしたが、理解し難い春告の王子の告白に少なからず動揺しておりました。
そして愚か者めが、この様に扱われ、民を殺されても目が覚めぬとは、と春告の王子に吐き捨てて、玉座へと上がろうとしました。春告の王子は女王を追いかけ、腕を掴んで言いました。貴女がどんな人でも構わない、私は貴女を今もこれからも愛しているのです、と。女王の中で小さく何かが壊れる音がしました。それはとても女王を恐れさせました。思わず春告の王子の腕を払いのけます。
隙が生まれたと見た夏の王子は、ここぞとばかりに斬りかかりに来ましたが、またしても春告の王子が盾となり、女王を守ります。女王は春告の王子の背中を見ながら、自分の中で怖れが大きくなるのを感じました。
しかし本当に怖れを感じていたのは女王の中の闇でした。闇はこれ以上怖れを感じている事が我慢なりません。すると玉座の上に剣が飾られているのが見えました。初代の王が天と地の神から授けられたあの剣です。死せる者の国の女王は剣を手に取ると、春告の王子の背中に剣を突き立てました。
クロエは叫び声を上げ、気を失ってしまいました。
女王は背中から剣を抜くと、これでもう戯言も言えまい、春告の王子に言いました。春告の王子は苦しみながらも、女王を抱き寄せて言いました。それでも貴女を愛している、と。
その言葉を聞いた女王は、いや女王にしがみ付いて来た闇との絆は完全に砕かれてしまいました。闇の力はもう女王の体に取り付いている事が出来なくなり、抜け出ていこうとしますが、何百年と体の隅々まで結びついていた女王の体からすんなりと出る事が出来ません。黒い大きな塊が女王の体から離れようとしては引き戻され、戻ろうとしては引き剥がされを繰り返します。女王は体を引き裂かれんばかりの壮絶な痛みに、のたうち回りました。
人々は目の前の光景に怖れをなして、目を瞑る者や顔を覆い隠す者もおりました。そしてどれくらい時間がかかったのでしょうか、女王の体から闇が全て出て行くと、後には白衣を纏った塔に閉じ込められる前の姫君の姿がありました。
呆然と立ち尽くす夏の王子の横を抜けて、痛みを堪えながら春告の王子は姫君を抱きかかえました。闇の力によって生かされてきた姫君は、その力を失った今、待つのは静かな死だけです。姫君はこの世で一番強く自分を愛してくれた春告の王子の顔を見つめ、優しく微笑み、そして息絶えました。そして春告の王子もその微笑みを見届けると、ついに力尽き、二人の体は重なり合ったまま深い地の底へと吸い込まれていきました。
二人が消えた後には、雫の形をしたダイヤが一つ遺されました。


四季の国・第3章

  • 2018.11.22 Thursday
  • 22:05

春告の王子は水音に導かれ、宵闇の森までやって来ました。
宵闇の森に入ってから、ここに立ち入ってはならないと幼い頃から言われていた事に気がつきましたが、何かが自分を呼んでいると言う確信の様なものを感じていた春告の王子はそのまま歩き続けました。
森深くまで来た時、突然木々が曲がったようになり薄明るく光る泉が現れました。
王子は驚きました。泉があった事ではなく、その辺で遠くから小さく聞こえてくる宴の音楽に合わせて女が一人踊っていたからです。
黒褐色の艶やかな髪をなびかせて、軽やかにステップを踏む彼女は見惚れるほど美しく、王子は一目でこの女に恋をしてしまいました。
思わず近づこうとした王子の足音に気づき、女は踊りをやめてしまいました。
王子は女に近づき名を名乗り、女を安心させました。そして素晴らしい踊りをもっと見せて欲しい、一緒に皆のところに行こうと女を誘いました。しかし女は辛そうに首を横に振ります。
そして私はこの泉から離れる事が出来ない、古い魔法にかけられてもう長い事ここから動けないでいる、と王子に告げました。
春告の王子は何とかして女をここから連れ出したいと思いました。いつもは思慮深い王子でしたが、先程一目惚れしてからと言うもの、女の些細な仕草一つ、ため息一つとっても王子の胸は締め付けられるように恋い焦がれ、初めて人を我がものにしたいと思い始めていたのです。
ただ自由になる方法は一つだけある、と女が言いました。王子は思わず食いつく様にどんな方法か尋ねました。
すると女は貴方が私を永久に愛すると誓って下さるならば、と言うのです。
春告の王子の心は歓喜に震えました。こんな、こんなにも幸運な事があって良いのかとすら思いました。
王子は女の前に跪いて、手を取りました。そして我が心我が身の全てを永久に貴女に捧げようと誓い、女の白く美しい手に口づけをしました。
すると突然、泉の水が水柱となって轟音を立てて天に昇り出しました。
王子は咄嗟に女を腕に抱き庇いました。しかし妙な事に女は王子の腕の中で徐々に笑い出し、それはどんどん大きくなって高笑いとなりました。
そして自分は死せる者の国の女王だと名乗りました。結界を解くために季節の王家の人間が必要だったのだ、と冷たい声で王子に告げました。
水が全て天へと登ると黒々とした雲が空に広がり、ぽっかり空いた地の口からは女王が何百年とかけてあらゆる恨み辛み、妬み嫉み、憎しみ、苦しみを注ぎ込み育て上げた夥しい数の魑魅魍魎が一斉に地上へと這い出て来たのです。
春告の王子は己の成した事の軽率さに打ちのめされ、今まで目にした事のない異形の怪物達におののきました。
女王は地の口から出てきた臣下の者に、後で何かの役にも立とうからその者を捕らえておけと命じ、抵抗虚しく春告の王子は捕らえられてしまいました。
死せる者の国の女王は雲が黒くたれ込める空を見上げ、思わず武者震いしました。
ようやく積年の思いを晴らす事が出来るのです。育て上げた魑魅魍魎達が国中に散らばり、阿鼻叫喚を呼び起こす様がありありと思い描けます。
女王は他は全て手下の者達へとまかせ、数人の供と真っ直ぐ城へと向かって行きました。

夏至祭も夜中に差し掛かり、ちらほらとくたびれて寝る者も出始め、王家の人々も一旦城内へと引き上げた頃でした。
さっきまで夏の星座が煌めいていた夜空に俄かに黒雲が立ち込め、なんとも言えない不吉な気配が辺りに漂いました。
不安になった者達が立ち上がって辺りを見回すと、山の麓の方から何か蠢く黒い塊が徐々に向かってくる様に見えました。それが突然猛烈な速さに変わり、宴の中に飛び込んで来たのです。
それは四季の国の人々が目にした事のない恐ろしい異形の怪物でした。
怪物共はその凄まじい力で辺り一帯をなぎ倒し、耳を劈くような咆哮を上げ、人々を踏みにじり、生きたまま食われた者までおりました。
先程までの祝福された饗宴が幻だったかの様に、一瞬で全てが地上の地獄と化しました。天気までもが荒れ狂い、川が暴れ出し、逃げ惑う人々を激流が押し流しました。
城内にも吹き付ける嵐の音と共に、聞き覚えのない恐ろしい獣の声と人々の断末魔が聞こえてきました。何事かと窓から覗き見た光景に、城の人々も顔色を失い、狼狽え、気を失う者もおりました。
その時一人城の物見台からその光景を見ていたのは、術師のアルフレッドです。
アルフレッドは結界が破られた事を悟りました。そして静かに冬の王の元へと向かいました。


冬の王の間に集められたのは王家の人々と僅かな重臣だけでした。
術師のアルフレッドはそこに春告の王子の姿が無い事を認め、誰が結界を解いたのか分かりました。アルフレッドは皆に事の顛末を語りました。
アルフレッドから話を聞いた夏の王子は、怒り心頭に達し自ら女王の征伐へ向かうと言い出しましたが、アルフレッドは首を振ります。こうなっては事を治められるのは結界を解いた本人、春告の王子でしかないのだと。そして死せる者の国の女王は人々の負の情念を糧にしてしまう、憎しみを持って刃向かえば寧ろ更に強大な力を持つだろうとも言いました。
しかし若き青年の夏の王子にとって、先程見た余りにも酷い光景を目にして、何もせずにいる事など出来ませんでした。
夏の王子は初めて憎しみと言う感情が、体から湧くのを感じました。それはとても耐えられるものではありませんでした。夏の王子はアルフレッドが止めるのも聞かず、兵を伴い女王の征伐へと向かっていきました。

吹き荒ぶ風と打ち付ける雨の中、夏の王子は魑魅魍魎達を怒りに任せてなぎ倒して行きました。後に続く兵達も皆一様に怒りと憎しみに取り憑かれた様に、ただ一心不乱に敵に斬りかかっていきます。
しかしおかしな事に、どんなに斬って倒しても、まるで雨後の筍の様に絶えず化け物が湧いて出てきます。そしてそれと比例して夏の王子も兵達も、恐ろしく疲弊している事に気がつきました。
足元がおぼつかなくなりかけた時、化け物どもが二手に分かれました。見ると一人の黒衣の女がひたひたとこちらへ向かってきます。思わず身震いする程の冷たく鋭い眼差しに、これが死せる者の国の女王だと夏の王子にも分かりました。
幾ら戦っても無駄な事、お前が我らを憎く思えば思うほどその憎しみが全て我らの栄養となる、と高笑いをしました。
カッとなった夏の王子が女王に斬りかかろうとしますが、女王が手をかざしただけで王子は動けなくなってしまいます。
そしてそのまま、王の前に案内しろと夏の王子に命じます。女王が術を解くと、拘束を解かれた夏の王子は息も絶え絶えになりながらも、決然と断りました。
しかしその時、女王の後ろから進み出た者を見て驚きました。
女王の手下の者に捕らえられた春告の王子でした。春告の王子は兄を見ると、全ては自分のせいだと項垂れました。そして女王は案内しないのならば、この場でこの愚かな弟の命を奪うだけだと夏の王子を脅しました。夏の王子はこの愛しいはずの弟を、生まれて初めて憎いと感じました。けれどもやはり、殺されるのを黙って見ている事は出来ませんでした。
夏の王子は女王の言う通りにする、ただし女王一人だけでなら、と条件をだしました。すると女王は一人で十分だと言い、またしてもけたたましく笑いました。

四季の国・第2章

  • 2018.11.20 Tuesday
  • 00:04

時計をまた今に戻します。
今日は待ちに待った夏至祭の当日です。国中から人々が集まってきました。
皆思い思いに着飾り、歌い、既に酔い始めている者すらいます。それもこれも年に一度の夏至祭だからこそ、皆目一杯羽目を外すのです。
そして何より人々が楽しみにしているのが、毎年披露される王子達の舞でした。夏の王子と春告の王子は共に舞の名手でした。毎年この夏至祭で夏の盛りを寿ぐ舞を披露するのです。
王子達の舞に国中の人々が夢中になり、共に踊り出し、若い娘達などは美しい兄弟の躍動する姿についうっとりしてしまうのでした。

日が沈み始めると、夏至祭の始まりです。
中央に組まれた櫓に火が灯され、たちまち大きな炎となり、同時に一同に集まった人々から大歓声が上がります。
間髪入れず音楽が始まりました。皆炎を取り囲み、大きな輪となって踊り出しました。これから三日三晩踊り疲れては眠り、起きると同時に踊りだすのです。
月が真上に昇る頃、いよいよ王子達の舞が始まります。
二人は特別に作られた舞台の上へと上がります。人々の期待が高まり、炎の熱気が渦となって最高潮に達しました。
音楽がかかると、二人は期待通り、いや期待以上の舞を見せ、人々の熱は天を突くかと思うほどに盛り上がりました。
冬の王と秋の王妃も貴賓席からその舞を堪能し、二人でこの世の幸せと言うものの真髄を味わっているかのようでした。
王子達の舞は大盛況のうちに終わりましたが、まだまだ宴は止みません。音楽は鳴り響き、人々は彼方此方で輪舞を舞います。夏の王子は踊り終えたばかりだというのに、皆にせがまれ輪舞に加わりました。春告の王子は心地良い疲れと共に、その光景を見守っていました。
その時です。不意に春告の王子は心臓が大きく脈打つのを感じ、思わず胸に手を当てました。その直後、宴の喧騒の最中だと言うのに突然の静寂に包まれ、水音を聞きました。一つ、二つ雫が水面に落ちていく音が聞こえました。
気がつくとまた喧騒の中におりました。春告の王子は周りにいた者に水音が聞こえなかったか尋ねましたが、誰もが首を横にふります。思い違いかと思った時、再び水音が聞こえます。呼んでいる、と春告の王子は感じました。水音が自分を呼んでいる、そう思った時既に王子は人々の踊りの輪を一人離れ、水音に導かれるまま静かにその場から姿を消しました。
王家の人々も他の者も皆、饗宴の中で誰もがその事に気がつかず、ただ一人春告の王子が消えた事に気がついたのはクロエだけでした。

その頃、宵闇の森では生死の泉が地を割き、木を押しのけて湧き出ておりました。
丁度月が真上に昇った時、泉が満ちて水面から真白い手が水をかき分けました。
死せる者の国の女王です。
女王はまず生死の泉でたっぷりと、30年の時を洗い流し、これからの戦いに備え活力を体の隅々にまで行き渡らせました。
もう30年前のような失敗は、今回は起きないだろうと女王は確信しておりました。
と言うのも30年前、冬の王はこの生死の泉の水を飲みましたが、数日寝込んだだけで若さは失われず今まで過ごしてきていました。
金の雄鹿に追い払われた女王でしたが、あの時同時に冬の王の体内にあった泉の水に呼びかけたのです。
今は待て、やがて呼びかける時、必ずお前の宿っている者を私の元に寄越すのだ、と。
泉の水は数日冬の王の体を調べ、いずれその子へと繋がる場所へと潜んだのです。そしてある時、泉の水は王妃の胎内を通って生まれ落ちる子の体の中へと潜り込んだのでした。
その子は春告の王子でした。
泉の水は春告の王子の成長と共に、少しずつ移動しました。そして今年、来るべき女王の来訪の為に春告の王子の心臓へと移り住み、今はまるで小さなダイヤの雫の様な有様で、王子の拍動に合わせて震えているのでした。
女王が一声かければ、春告の王子はもう意のままに操ることが出来るでしょう。女王は身のうちに滾る黒い欲望が地下のマグマのごとく、噴火の時を待ち焦がれているのをひしひしと感じました。
渇望と言うのに等しいほどの切実さで、女王はこの四季の国を欲しておりました。女王はあまりにも、あまりにも長く生き続けたが為に自分が何処から来た者か、とうに忘れておりましたが、本来ならば季節の王家にその名を刻むはずでした。
死せる者の国の女王は、初代季節の王家の姫君だったのです。
幾百年もの昔、この地は小国同士が無益な争いを繰り返し、天は雲低く垂れ込め大地は数多の人々の血で汚れ、痩せた土地で育つものも濁った水に生きるものも無く、人々の心も同じように荒んでおりました。
あまりの無法さに天の神と地の神は耐えきれなくなり、いくつかの国の長の中で賢き振る舞いができると見込んだ長に問いました。我々が与え給うた土地と空とをこれ以上穢されるのは見るに耐えない、そなたがこの争いを治めることを約束するならば我らはこの世に四つの季節を与え、またそれを齎す力をそなたの一族に授けよう、と。
その長は神からの啓示を受け、諸国の平定を約束しました。神は平和を望まれましたが、如何なる和睦にも応じない者との戦いのためにと、一つ剣を授けました。
長は諸国を渡り歩き、時に力強く説得し時に粘り強く交渉し、また致し方ない時に限りその剣を用いて、数年かけて今の四季の国を全て治めるが出来ました。
天の神地の神は共にその成功を喜び、約束通り長の一族に季節を齎す力を与えようと言いました。
長は初代春告の王となり、その妻は初代夏の王妃に、一番目の息子は初代秋の王子なりました。残る冬は誰に授けるかと神に問われた時、初代春告の王は頭を悩ませました。初代春告の王には初代秋の王子の他に娘がおりました。しかしまだほんの赤ん坊ですが、つい先頃二番目の息子が生まれたのです。
娘はとても賢くまた器量良しで、人々から好かれてもおりました。しかしやはり娘です。いずれどこかへ嫁していくことを思うと、生まれたばかりとは言え二番目の息子の方が良い様に思いました。
そして二番目の息子を冬の王子にして欲しいと神に申し出ました。地の神は本当にそれで良いのかと尋ねましたが、初代春告の王は娘はとても賢いからこの選択も理解してくれようと思っておりました。
二番目の息子は初代冬の王子となりました。
初代の王の目論見は全く外れました。
自分が冬の姫君となれなかったと知った娘は、今まで見たこともない剣幕で父親である初代の王を責めました。
女であると言うだけで、私が赤ん坊より劣るとは天地がひっくり返っても許し難いと髪を振り乱して怒りました。初代の王は娘の変貌に内心たじろぎました。賢き姫君の中に、ここまでの誇りがあるとは思っていなかったのです。
何日経っても姫の怒りは収まりません。初代の王はまたしても間違いを犯します。暴れて収まらない姫を塔の片隅に幽閉しました。しばらく一人で頭を冷やした方が良いとの考えでしたが、冷たい石壁と昼でも薄暗い塔の中は姫の孤独と怒りをより深く黒いものにしていくのに十分でした。
昼も夜も分からず何日閉じ込められたのか分からなくなった頃、部屋の隅、より一層闇の濃いところから声がしました。
その声は姫がどれだけ優れているか、こんな仕打ちを受けるべきは姫ではなくあの父王ではないか、赤ん坊如きに何ができると言うのか、あの兄だって姫に比べたらどれだけ能無しかなど、姫の心が欲する事を次々と囁きました。
そしてその声は闇の中から姿を現しました。それは黒衣を纏った姫君自身でした。私と一緒になれば怖いものは何もない、天の神も地の神も私と姫君が一体となれば恐るるに足りないと耳元で囁きました。
姫は腹の底がぐつぐつと煮えるように熱いのを感じ、矢も盾もたまらなくなり遍く全ての者に響き渡るように叫びました。
天を呪い地を呪い、我が一族を永遠に呪い続けよう、我が魂は闇と一体とならん、と。
忽ち空はかき曇り雷鳴が轟き、地が避けました。姫君の呪詛を聞き届けた神々は稲妻で塔を破壊し、姫の背中にこの地上で生きる事を許されぬ烙印を押しました。
事ここへ来てようやく己の愚かさを知った王は、姫をなんとか生かす道として地下の国、死せる者の国を与えました。姫は地の裂け目から死せる者の国へと送られます。その際に初代の王家の術師が姫が地下へと入った後、地の口は閉ざされ戻っては来れぬと結界を張りました。しかし姫は結界が完成する前に、夏至の頃にはその口が開き、死せる者を生かす泉が湧く、また王家の者が自ら我に身を捧ぐ時結界は砕かれる、と術返しをしたのでした。
更なる術を施す前に結界は完成してしまい、地の口は固く閉じられました。
術師は夏至の頃に湧く泉を隠すため、辺り一帯を深い森で隠し、また念のため金の雄鹿を呼び出してこの森の番を頼みました。
それ以来何百年と経つうちに、女王は出自を忘れ、身に残るのは内側から焦げ付くような憎しみだけとなりました。
もう今となってはなぜこの地上の国がこんなにも憎いのかは分かりませんが、 ただただこの地上を光差す所無き暗黒の闇へと突き落としたいばかりです。
たっぷりと生死の泉に使った女王はそろそろ頃合いだと、春告の王子に向かって呼びかけました。
こちらへおいで、早く。

四季の国・第1章

  • 2018.11.10 Saturday
  • 14:23

つい妄想が爆発してしまい、もしも願いが叶うなら的な感じで、フィギュア用の戯曲と言うと大げさか、ストーリーを書いてしまいました。
もちろんその妄想の根源は彼、高橋大輔です。
出来れば白めで髪が長めの大輔で演じて欲しいなぁ…などと、もう、気持ち悪さの極致ですね、あははは…。
とにかく長くなってしまったので、とりあえず第1章的なものを。

「四季の国」

いつの時代とも言えず、何処とも言えない所に地上の楽園とはかくや、と言うような豊かな国がありました。
その国は代々四季を司る「季節の王家」と呼ばれる人々により治められ、王家によってもたらされる四つの季節の恵みを受けておりました。
丁度100代目に当たる今は“厳かなる冬の王”、“豊穣の秋の王妃”、“眩いばかりの夏の王子”、そして“春告の王子”によって季節の変遷が行われ、国の隅々に行き渡るまで皆穏やかに暮らしておりました。

季節の王家に産まれた者は、必ず体のどこかに紋章の様な痣を持って産まれてきます。
冬の王は額に氷の結晶を、夏の王子は左胸に輝く太陽を、そして春告の王子は背中に「名も無き花の蕾」と呼ばれる痣を持って産まれて来ました。
生まれ落ちた時からいずれの季節かを担う様運命づけられているのです。
しかしながら秋の王妃は王家の生まれではありません。
王家の人間は妻ないしは夫を得る時、必ずその相手を王家の庭へ連れて行かなければなりません。
王家の庭と呼ばれている城から見渡せる庭園の美しさは、とても言葉には出来ません。
その庭園は四季の国が出来た頃の古い魔法によって保たれた、四つの季節が同時に矛盾なく存在する事の出来る庭なのです。
一角では春の花が咲き乱れ、その隣ではちらちらと雪が舞い、氷の彫像が一滴の雫を垂らす事もなく美しさを保っています。
城を訪れた人は是非近くで見てみたいと思うものの、それは叶いません。
なぜなら王家の庭の入り口にある薔薇のアーチを潜ろうとすると、まるで風船に体当たりしたかのように弾き飛ばされてしまうのです。
ですから王族の人々にとって、愛する人を王家の庭へ連れて行くのは非常に不安な事でした。
もしその人が薔薇のアーチから弾き出されてしまったら、どんなに願っても結ばれる事は出来ないからです。
しかし冬の王は間違える事なく王妃を選びました。まだ若い娘であった王妃はめくるめく庭園の美しさにすっかり心を奪われました。
そして赤や黄色の美しい落ち葉が降り注ぐのを見上げた時、不意に首筋がドクンと脈打つのを感じました。
若い美しい娘は首筋に新しく落ち葉の紋章を刻み、晴れて秋の王妃となったのです。

夏の王子とその弟の春告の王子は、とても仲の良い兄弟でした。
溌剌と健やかで何事にも闊達な兄と、慈しみ深く穏やかな弟は互いに無きものを補い合い、また見目麗しい兄弟でもありました。
兄弟にはクロエと言う幼なじみがいました。
クロエは夏の王子と春告の王子の丁度間の年頃で、幼い頃はまるで3匹の子犬のように遊んだり眠ったりしたものでした。
しかしながら長ずるにつれ、夏の王子は妹のように思っていたはずのクロエに対して今までとは違う感情を抱きつつあるのに気がつきました。
ですがクロエはクロエでまた別の感情を抱いておりました。
弟の様に接して来た春告の王子に対して、胸の奥に秘める思いがありました。
幼い頃と何も変わらない心持ちでいたのは春告の王子のみです。
頼もしい兄と明るい姉のようなクロエがいずれ結ばれて、四季の国を治めてくれたらと考えていたのでした。

時は夏。
眩いばかりの夏の王子の季節です。
太陽はその明るさを増し、草木は活気付き、人々はここぞとばかりに夏を楽しみます。
もうすぐ夏至でした。
夏至は夏の中でも国を挙げての大切な行事でした。行事といっても要はお祭りです。
三日三晩をかけて歌い踊り、生の喜びを謳歌し尽くすのです。お城の中も外も国中夏至の準備で大忙しでした。
その騒ぎを横目に、長年王家に使える術師のアルフレッドは冬の王に進言しました。
今年は30年に一度の宵闇の森の泉が湧く年、如何なる災いも呼び起こさぬよう誰も森へと足を踏み入れることの無いように、と。
宵闇の森は城から程ない山の麓に鬱蒼と茂る、昼でも光の刺さない所でした。
普段から誰しも気味が悪いと足を向けない所でしたが、念の為に国中に改めて忠告を触れ回りました。

30年程時を遡ります。
まだ冬の王が王子だった頃、夏至祭の前日の事です。夏至祭の料理の為に王子自ら狩りに出た時の事でした。
獲物を深追いする余り、宵闇の森まで来てしまいました。
辺りは真っ暗で何も見えずにいた時、ふと水音を耳にしました。音を頼りに歩いて行くと、まるで辺りの木を押しひらくかの様に薄明るく光る泉があったのです。
冬の王子は唐突に喉の渇きを覚え、思わず泉の水を飲んでしまいます。
その水は驚くほど冷たく、胃の腑に落ちてからもその冷たさを失わないので、王子は思わず身震いしました。
その時泉に波紋が広がっているのに気づきました。女が一人水浴びをしているのです。
美しい、とても美しい女でした。しかしながら王子は歯の根も合わぬほどの寒さを同時に感じました。
女は王子に気がつきました。
それから女は王子に助けを請うて来ました。悪い魔法使いに捕らえられて、この泉から離れる事が出来ないでいる、四季の国の王子である貴方なら私にかけられた魔法を解けるのだと。
そしてその為には貴方の永久の愛を私に誓ってくれなくてはならないと。
女はその抜ける様な白い肌を惜しげもなくさらけ出し、王子に縋り付きます。
一瞬王子はこんな美しい女のためならと、心が揺らぎかけました。
その時、泉の対岸の茂みから物音がし、何かが飛び出して来ました。思わず王子は傍にあった弓を取り、矢を射ってしまいました。
切なげな鳴き声と共に、泉のほとりに崩れ落ちたのは、何と千年に一度現れると言われている金の雄鹿でした。
矢は雄鹿の左腿に刺さって居ましたが、雄鹿は前脚だけで上体を起こすと、その光り輝く両の目で女を射るように見つめます。
すると女は弾かれたように王子から離れ、苦しみ出しました。女は震える手を泉にかざすと有ろう事か水が二手に分かれ、地の底へと続く回廊が口を開けて居ました。
女は死せる者の国の女王でした。
苦悶の表情を浮かべながら、決してこのままでは終わらない、いずれまた必ず私はここへやって来ると言い残し、地の底へと女王は消えて行きました。
女王が消えると、まるで地中に吸い込まれるように泉も消えてなくなりました。
金の雄鹿は王子に向かい、全てを語り始めました。
30年に一度、夏至の頃に死せる者の国と四季の国と隔てている地の扉の口が開く、その時この宵闇の森に生死の泉が現れるのだと。そしてその水は生ける者の若さを削ぎ、死せる者に生命を吹き込む。
あの女王はもう何百年もの長きに渡り、30年ごとに生死の泉で水浴びをして若返り続けている。
森には結界が張られているから外には出られないが、先程あの女王が言った通り、もし季節の王家の人間が女王に魂を差し出せば、この国と死せる者の国とがひっくり返り、全ての者が生きながらに死に、死んでなお生きなくてはいけなくなる。決して死せる者の国の女王に、四季の国を手渡してはならないと。
また、古よりの理で私を傷つけた者には災いが報いとして向けられる、しかし悪意を持ってなされた事ではないので、いずれその時が来たら姿を変えて貴方に助言をするだろうから、真実の目で見定めて聞き入れて欲しい、と言い残し森の奥へと消えて行きました。(続)



「説教ババア」のたわごと

  • 2018.09.29 Saturday
  • 16:15
はい、説教ババアが通りますよ、と。






まあ20才と言う事で、このぼくのりりっくのぼうよみさん(で良かったでしょうか)。
あのお名前はお見かけした事はありますが、お名前からしてアレかな、もうババアには関係の無いアーティストかなと思っておりまして、実際そうみたいですけれども。

時系列としては20才にしてご自分の天才的な才能の重圧に耐えられず、凡人として生きたいと。
その後賛否色々のご意見からすったもんだで上のツイートになられた様ですが。
その辺の事は別にどうでもいいのね。

音楽を売る人がいて音楽を買う人がいる→対等な関係。こちらについては理解出来ます。
ファンにヘコヘコする必要も無いし、聞く人がいると言う事に感謝するかどうかはアーティスト個々人の自由だと思います。
私が引っかかるのは「アーティストにも客を選ぶ権利がある」と言う所です。
これはどういう基準で選ぶんでしょう。

例えばですね、高級レストランとかのドレスコードですとか、京都の老舗料亭の一見さんお断りですとか、会員制のバー的なものとかなら明確な基準がありますよね。
衣服や紹介制による信用や高額な会費、それらを無理なく手にできるだけの収入や地位を保証するという事ですから。

でもこの場合の「客を選ぶ権利」は文脈から見てアーティスト側の単なる好悪による様に思えます。
不可能な事ではありません。
それでも良いと彼にとって理想的なファンであろうとする人が一定数いれば、ある程度の規模でその商売は成り立つでしょう。
ある程度の規模ならです。

ようやっと成人に達した彼にはまだ見えないかもしれませんが、彼がぶっちゃけた本音はメジャーデビューしたミュージシャンなら誰でも感じている事だと思います。
メジャーと言うのはそう言う世界だとウン十年とバンドを見続けていて、そう思います。
大体音楽を貪る様に聞く人間なんてのは、何か満たされないものを抱えてその隙間を埋めたくて必死に聞くんです。
自分でも気持ち悪いなと思う位聞くんですよ。
貴方が本当に圧倒されたのはそういう気持ち悪い程聞き込んだ人達からの切羽詰ったほどの期待じゃないんでしょうか。

メジャーシーンに置いて「客を選ぶ」事は現時点でほぼ不可能だと思いますよ。
頑固親父の料理屋で俺の料理が分かる舌のやつにしか食わせない、みたいな事をやりたいのだったらインディーズで十分じゃないですかね。
まあ音楽をこれから続けるのかどうかも分からないけど。

貴方の苦しみは貴方のものであって、こちらが担うべきものじゃない。
聞く側の苦しみは聞く側のものであって、アーティストにぶつけるものじゃない。
金銭の授受によって対等なのでは無いんです。
そこを間違えたから「説教ババア」が湧いてきちゃったんじゃないのかなw

まあまだ20才ですし、お金沢山稼いだでしょうし、何か真剣に取り組めるものにまた出会えると良いですね。
前途洋々、広い世界に生きてください。


美しきアイロニー

  • 2018.08.10 Friday
  • 23:55
あれ、なんだかまたずいぶん書いてないわ。
今年の夏はなんだか慌ただしい…。
気持ちが落ち着かないなぁ。あれ、不惑って四十のはずなんだけどなぁ…。
歳をいくつ重ねても、いや重ねれば重ねるほど自分という存在の心許なさに気づくと言うか。
自分というか人間というか、素粒子の話なんか考えだすと、あれ、てことは素粒子レベルになれば私という一個の肉体も固まりのように見えるだけで、単なる粒々の集まりって事で、ただ他の分子が大きいから通れないと言うだけであって、じゃあその粒々がなぜに集まって離れないのだとか、この酷暑に任せて考えていくと、日々の糧を稼ぐと言う手垢にまみれた聖なる行為がつい疎かになる。

要約すると暑くて働く気になれぬ、と言う事ですね。
久しぶりで筆が荒れていますね。


雑事に追われていて、ちょいちょいとしか大輔情報を追いかけられていないのだけども。
今シーズンのプログラム(などと書ける日が来るとは…涙。未だに信じられないけど幸せですなぁ)の曲が発表されて、まあ、あのSPのシェルタリングスカイは、あーこれは絶対に良いやつー似合うやつーとか勝手に思ったけれど。
フリーの曲を聴いた時、なんかほんと、すごい人だなと思ったですよね。

4シーズンぶりの復帰で、初めましての振付師さん、リショーさんと言う方ですよね、しかもリショーさん側からのオファーだとかで。
おそらくジョン・グラントの曲を持ってきたのもリショーさんなのかと推測しますけども、振付師さんや曲の選定とかを見るだけでも、あぁこの人は本当に極めようとしているんだな、と言う静かで冷静すぎる程の覚悟を感じると言うか。

もちろん引退する前だって、私には計り知れない並々ならぬ覚悟があったろうけれども、国内外問わずその競技の顔と目される選手に於いては、プラス面だけではないくびきと言うか縛りと言うか、足枷とまでは言わなくともそこから先へは行きたくとも行けない場所、と言うものがあったのではないだろうか。

それが…いまや自由である。
そのポジションは今は他の選手が担ってくれている。
恐らく現在のルール上、彼が今のトップ選手達に点数で上回る事はないと思われる。
だがそこが重要なのだと、私は思う。

チラと見せて頂いたSP、FPの練習動画。
まあ、もうその、言わずもがな感嘆のため息しか出ないわけだけれども。
あれにアレでしょ、本番はガガガってパッション迸るんでしょ。かーっ、ってまあちょっと落ち着いて。

復帰にあたって彼は勝つのが目的なのでは無くて、自分自身の為に滑りたいと言っていた。
恐らく今後出場する試合でも、以前ほど点数を意識して滑る必要は無いだろう。
ただその日の試合でその時自分の思い描く最高の演技を、と言う気持ちで挑まれるのでは無いだろうか。

それってつまり、一番強いんじゃないかと思う。
現行ルール上で一番点を取れる、という意味ではない。
あの高橋大輔が、無心で演技をする、のだ。
これ以上に強いものがあるだろうか。

彼はきっと純粋に心からスケートを欲して、また今後のパフォーマンスの事も見据えての現役復帰だろうと思う。
でも今の競技の場に彼の演技を持ち込む事は、この上なく鮮やかで美しいアイロニーだと私は思う。
それを現場の人々がどう受け止めるのか、見て見ぬ振りをするのかは知らない。
また彼がそう言う目的を少しでも意図しているのか、そうでないのかはご本人でなければ分からない事だけれど、単に側から見るだけの野次馬みたいな私からすると、その美しいアイロニーをただ待ち焦がれるだけである。


それから村元哉中さんとクリス・リードさんのペア解消。
先シーズンのFDがとても好きだったし、年々素敵なペアになるなぁと思っていたので残念至極です。
外野からでは分からない事情もあるのだろうけれど、もう少しお二人のプログラムを見たかったなぁ…と。
お二人とも良きパートナーを得られます様に。


王者の帰還…!

  • 2018.07.01 Sunday
  • 18:21
いや、もうさっき知ってびっくりした。
びっくりし過ぎて変な声出ましたし。

その、ファン歴浅い私が言うのもアレなのですが、今年はオリンピックの後ゼロのキャスターも辞められて、アイスショーには出られておりますけども、ここ2、3年に比べて活動が緩やかだなあ、などと思っていて。
こちらもお猿のおじさん達との二足のワラジなもので、なかなか細かい動向などは追えずにいたので、全くの寝耳に水。

何となく、あぁもしかして、そろそろカンパニー的なものにがっつり取り組まれるのかしらん、そして数年後ジャーンと発表されたりするのかなあ、なんて思ってたりもした。

それが。
まさかの。
高橋大輔!! 現役復帰!!!!

なんかもう勝手に色々とまあ、私なんかが思っても詮無い事が浮かんだりもするけれども。
でも何より!大きな声で「ありがとう!!!!」と叫びたい!

ご本人はこれから、もしかしたら今までよりも過酷な選手生活になるかもしれないけれど、とにかく私は一体どんな演技を見せてくれるのかと今ワクワクしています。

何をどう言っても今は野暮でしかないね。
ものすごく芯の強い方だとは思っていたけど、私なんかが思う以上に彼はファイターだったんだな、と思った。
迷いを振り切られたのならば、存分に氷の上であの媚薬と言っても過言ではない、音楽との融合を見せて欲しい。
て言うか見せて下さい、お願いします!

本当に心からありがとうございます。
何を言わずともきっとご自身で実り多き再チャレンジになさると思いますが、幸多き道のりとなりますよう、陰ながら応援しております。

…あぁ、めっちゃ嬉しい…。



愛して欲しい

  • 2018.06.30 Saturday
  • 23:02
昔見た映画で、アメリカの映画だったけど、詳細は忘れてしまったが、長年同棲していた恋人同士で、女性の方があまり感情表現の長けた人ではなくクールなタイプで、不安を募らせた男性が本当に自分を愛してるのかあの手この手で引き出そうとする。
北風と太陽みたいなもので、そうすると女性の方は更に頑なになっていき、ベッドの中でさえ問い詰める彼氏にウンザリして、アイマスクと耳栓をして寝ようとする。
そうこうする内に彼女の心は別の人(女性)に移ってしまい、結局お別れしてしまう。
しかし新たな女性の恋人も件の彼氏と同じ様になっていき、彼女はまたアイマスクと耳栓をする羽目になるのだけど。

どうしても人は、自分が愛されているのかを確かめずにはいられないものらしい。

私はどちらかといえばアイマスク派なので、愛して愛してとアピールされると少々うんざりしてしまう。
愛してアピールには色んなものがあって、どストレートに表してくれればまだ良いものを、手を替え品を替えしてまるでアピールしてませんと言うタイプまで様々だ。

個人的に苦手なのは健気なタイプ。
自覚はなくて体や行動から滲み出るようなものだ。
それは外因的な環境から起こる事が多いと思う。なのでその人そのものに起因しているわけではないので、責める気は毛頭無いのだが、何かしらこちらの手落ちを責められているような気がして直視出来ない。
誰かがその人を心ゆくまで愛してあげて欲しいとは思う。
でも愛はその壺の底が分からない。底が抜けている場合すらある。
満ち足りるまで注げるか、穴を塞がなければならない場合もあろう。
どの道その人の、骨の髄まで付き合う覚悟がなかったら、おいそれとは関われない気もする。

そして取り分けウンザリするのは、アピールもせず、その自覚もなく、勝手に人の愛情を断りもせずふんだくっていく人達。
自分が人に愛されていると信じて疑わない人に多く見られる。
愛があることに慣れすぎて、まさか自分に愛が与えられないなどとは思っていないのだ。
もしくは私はこれだけやったから愛されるべきだ、というべき論の人もある。
何々なのだから私を受け入れるべきだ、と立場を利用する場合もある。

別に宗教家ぶるつもりはないが、皆が皆愛を与えてくれと喚き立てる人が多すぎる。
愛はそもそも与えられるものじゃないと、私は思う。
ギブアンドテイクみたいに分かりやすいものじゃない。

例えば同じ家に住んでいたりして、暮らしに纏わる雑事をお互いに分担したり、助け合ったりするのは、愛というより日常に必要な思いやりだ。
格別相手を愛しているからと言うわけではなく、単なる共同生活において必要な事である。
その思いやりすら持てないのはまず、もう一度暮らすという事を考えなくてはいけない。
(まあ、そう言う人は多いと思うけど)

でも愛には定義がない。
定義がないものだから、相手に求める事は不可能だ。
愛される、と言うのは万人に平等に与えられるものではない。
それだけ奇跡的な事なのだ。

私としてはもう少し世の中が愛する、と言うことに重心を置いてみたらどうかと思っている。
愛されたい、に重きを置くと人は際限がなくなる。愛ばかり貪り食うモンスターみたいになる。
でも愛するって意外と疲れるのだ。
そんなに際限なく愛を与えられる人は居ない。やっぱり人ですから。
もちろんそれが過剰になってはいけないが、愛されたいというのは放って置いても湧き出てくる食欲みたいなものなので、意識的に愛するにシフトした方が心のダイエットがうまくいくのじゃないのかな、などと。

与えても損になるものなど、この世には無い。
誰かの愛を貪り尽くす前に、愛する側の人が増えていくように、私は今日も愛する側の人であるようにと思う。

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