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    四季の国・第3章

    • 2018.11.22 Thursday
    • 22:05

    春告の王子は水音に導かれ、宵闇の森までやって来ました。
    宵闇の森に入ってから、ここに立ち入ってはならないと幼い頃から言われていた事に気がつきましたが、何かが自分を呼んでいると言う確信の様なものを感じていた春告の王子はそのまま歩き続けました。
    森深くまで来た時、突然木々が曲がったようになり薄明るく光る泉が現れました。
    王子は驚きました。泉があった事ではなく、その辺で遠くから小さく聞こえてくる宴の音楽に合わせて女が一人踊っていたからです。
    黒褐色の艶やかな髪をなびかせて、軽やかにステップを踏む彼女は見惚れるほど美しく、王子は一目でこの女に恋をしてしまいました。
    思わず近づこうとした王子の足音に気づき、女は踊りをやめてしまいました。
    王子は女に近づき名を名乗り、女を安心させました。そして素晴らしい踊りをもっと見せて欲しい、一緒に皆のところに行こうと女を誘いました。しかし女は辛そうに首を横に振ります。
    そして私はこの泉から離れる事が出来ない、古い魔法にかけられてもう長い事ここから動けないでいる、と王子に告げました。
    春告の王子は何とかして女をここから連れ出したいと思いました。いつもは思慮深い王子でしたが、先程一目惚れしてからと言うもの、女の些細な仕草一つ、ため息一つとっても王子の胸は締め付けられるように恋い焦がれ、初めて人を我がものにしたいと思い始めていたのです。
    ただ自由になる方法は一つだけある、と女が言いました。王子は思わず食いつく様にどんな方法か尋ねました。
    すると女は貴方が私を永久に愛すると誓って下さるならば、と言うのです。
    春告の王子の心は歓喜に震えました。こんな、こんなにも幸運な事があって良いのかとすら思いました。
    王子は女の前に跪いて、手を取りました。そして我が心我が身の全てを永久に貴女に捧げようと誓い、女の白く美しい手に口づけをしました。
    すると突然、泉の水が水柱となって轟音を立てて天に昇り出しました。
    王子は咄嗟に女を腕に抱き庇いました。しかし妙な事に女は王子の腕の中で徐々に笑い出し、それはどんどん大きくなって高笑いとなりました。
    そして自分は死せる者の国の女王だと名乗りました。結界を解くために季節の王家の人間が必要だったのだ、と冷たい声で王子に告げました。
    水が全て天へと登ると黒々とした雲が空に広がり、ぽっかり空いた地の口からは女王が何百年とかけてあらゆる恨み辛み、妬み嫉み、憎しみ、苦しみを注ぎ込み育て上げた夥しい数の魑魅魍魎が一斉に地上へと這い出て来たのです。
    春告の王子は己の成した事の軽率さに打ちのめされ、今まで目にした事のない異形の怪物達におののきました。
    女王は地の口から出てきた臣下の者に、後で何かの役にも立とうからその者を捕らえておけと命じ、抵抗虚しく春告の王子は捕らえられてしまいました。
    死せる者の国の女王は雲が黒くたれ込める空を見上げ、思わず武者震いしました。
    ようやく積年の思いを晴らす事が出来るのです。育て上げた魑魅魍魎達が国中に散らばり、阿鼻叫喚を呼び起こす様がありありと思い描けます。
    女王は他は全て手下の者達へとまかせ、数人の供と真っ直ぐ城へと向かって行きました。

    夏至祭も夜中に差し掛かり、ちらほらとくたびれて寝る者も出始め、王家の人々も一旦城内へと引き上げた頃でした。
    さっきまで夏の星座が煌めいていた夜空に俄かに黒雲が立ち込め、なんとも言えない不吉な気配が辺りに漂いました。
    不安になった者達が立ち上がって辺りを見回すと、山の麓の方から何か蠢く黒い塊が徐々に向かってくる様に見えました。それが突然猛烈な速さに変わり、宴の中に飛び込んで来たのです。
    それは四季の国の人々が目にした事のない恐ろしい異形の怪物でした。
    怪物共はその凄まじい力で辺り一帯をなぎ倒し、耳を劈くような咆哮を上げ、人々を踏みにじり、生きたまま食われた者までおりました。
    先程までの祝福された饗宴が幻だったかの様に、一瞬で全てが地上の地獄と化しました。天気までもが荒れ狂い、川が暴れ出し、逃げ惑う人々を激流が押し流しました。
    城内にも吹き付ける嵐の音と共に、聞き覚えのない恐ろしい獣の声と人々の断末魔が聞こえてきました。何事かと窓から覗き見た光景に、城の人々も顔色を失い、狼狽え、気を失う者もおりました。
    その時一人城の物見台からその光景を見ていたのは、術師のアルフレッドです。
    アルフレッドは結界が破られた事を悟りました。そして静かに冬の王の元へと向かいました。


    冬の王の間に集められたのは王家の人々と僅かな重臣だけでした。
    術師のアルフレッドはそこに春告の王子の姿が無い事を認め、誰が結界を解いたのか分かりました。アルフレッドは皆に事の顛末を語りました。
    アルフレッドから話を聞いた夏の王子は、怒り心頭に達し自ら女王の征伐へ向かうと言い出しましたが、アルフレッドは首を振ります。こうなっては事を治められるのは結界を解いた本人、春告の王子でしかないのだと。そして死せる者の国の女王は人々の負の情念を糧にしてしまう、憎しみを持って刃向かえば寧ろ更に強大な力を持つだろうとも言いました。
    しかし若き青年の夏の王子にとって、先程見た余りにも酷い光景を目にして、何もせずにいる事など出来ませんでした。
    夏の王子は初めて憎しみと言う感情が、体から湧くのを感じました。それはとても耐えられるものではありませんでした。夏の王子はアルフレッドが止めるのも聞かず、兵を伴い女王の征伐へと向かっていきました。

    吹き荒ぶ風と打ち付ける雨の中、夏の王子は魑魅魍魎達を怒りに任せてなぎ倒して行きました。後に続く兵達も皆一様に怒りと憎しみに取り憑かれた様に、ただ一心不乱に敵に斬りかかっていきます。
    しかしおかしな事に、どんなに斬って倒しても、まるで雨後の筍の様に絶えず化け物が湧いて出てきます。そしてそれと比例して夏の王子も兵達も、恐ろしく疲弊している事に気がつきました。
    足元がおぼつかなくなりかけた時、化け物どもが二手に分かれました。見ると一人の黒衣の女がひたひたとこちらへ向かってきます。思わず身震いする程の冷たく鋭い眼差しに、これが死せる者の国の女王だと夏の王子にも分かりました。
    幾ら戦っても無駄な事、お前が我らを憎く思えば思うほどその憎しみが全て我らの栄養となる、と高笑いをしました。
    カッとなった夏の王子が女王に斬りかかろうとしますが、女王が手をかざしただけで王子は動けなくなってしまいます。
    そしてそのまま、王の前に案内しろと夏の王子に命じます。女王が術を解くと、拘束を解かれた夏の王子は息も絶え絶えになりながらも、決然と断りました。
    しかしその時、女王の後ろから進み出た者を見て驚きました。
    女王の手下の者に捕らえられた春告の王子でした。春告の王子は兄を見ると、全ては自分のせいだと項垂れました。そして女王は案内しないのならば、この場でこの愚かな弟の命を奪うだけだと夏の王子を脅しました。夏の王子はこの愛しいはずの弟を、生まれて初めて憎いと感じました。けれどもやはり、殺されるのを黙って見ている事は出来ませんでした。
    夏の王子は女王の言う通りにする、ただし女王一人だけでなら、と条件をだしました。すると女王は一人で十分だと言い、またしてもけたたましく笑いました。

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