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    四季の国・最終章

    • 2018.11.24 Saturday
    • 01:27

    冬の終わりが近づいておりました。
    秋の王妃は王家の庭で春であったはずの一角を見つめ、ため息をつきました。
    春告の王子が亡くなった日から、王家の庭の春の一角が、地はひび割れ赤く乾き、木々は立ち枯れて見る影も無くなってしまったのです。その日以来ずっと、王家の庭から春が消えたままなのです。
    そこへ王妃の姿が見えないので、心配して探しに来た冬の王、夏の王子そしてクロエがやって来ました。クロエはすんなりと薔薇のアーチを潜ります。

    あの日春告の王子が刺されてから気を失ってしまったクロエは、目を覚ましてから事の全てを知らされ一時は食事も喉を通らない程に衰弱しました。
    哀しみに暮れたクロエはこの喪失を分かち合えるものは、共に育った夏の王子以外思い浮かびませんでした。
    そして久しぶりに城を訪ねた時、王家の庭の中に冬の王、秋の王妃、夏の王子を認めました。秋の王妃は泣き崩れておりました。心配になったクロエは思わず庭へと駆け寄って、王妃を慰めました。王妃は朽ち果てた春の一角を見て、泣いていたのです。そしてその時誰もがすぐには気がつきませんでした。クロエが薔薇のアーチに弾かれる事なく、王家の庭へと入る事が出来ていた事に。
    それが意味することを皆分かっていました。そしてその場で夏の王子はクロエに求婚したのです。

    秋が過ぎ冬が来て、本来ならば春告の時期がすぐそこまで来ていました。
    しかし春告の王子はもうおりません。
    クロエが薔薇のアーチに受け入れられた時、王家の人々も国の民もクロエが“春告の妃”になるのだと誰もが思っていました。しかしクロエにはいつまで経っても体のどこにも紋章は現れなかったのです。
    王家の庭で誰もが口に出さずとも、春の到来をどうするものか案じておりました。
    するとアーチの外側にアルフレッドが来ておりました。
    アルフレッドは王家の人々に向かい、皆様案ずる事はありません、春は必ず告げられます、と言いました。
    しかし今までとは少し違う形で行われるかもしれません、とも言いました。
    そして冬の王に向かい、そろそろ私も城を去ります、と言うのです。
    王が訳を尋ねると、私は実は金の雄鹿です、10年前本物のアルフレッドは亡くなっており、私が体を借りておりました、と告白しました。雄鹿は泉の出る年に備え、雄鹿を傷つけた冬の王に災いが及ばぬようにと側に仕えたつもりだったが、力及ばず申し訳ないとも言いました。
    冬の王はアルフレッドとまた金の雄鹿の長年の献身に感謝しました。
    そして雄鹿は一礼するとアルフレッドの姿から金の雄鹿に姿に戻り、風のような素早さで軽やかに駆けていきました。

    そして金の雄鹿が去ってから数日、夏の王子が慌てて王と王妃、それからクロエを王家の庭へと呼びました。
    皆が急いで庭へ駆けつけると、あの乾いた春の地に花の蕾が一つありました。それはあの春告の王子の背中に刻まれた「名も無き花の蕾」にそっくりでした。
    皆が目を見開いて蕾を見つめていると、ゆっくりとその蕾が開いていきます。そして同時に枯れた春の一角が、緑の若草に覆われていきました。
    すると城の者が王家の人々を呼ぶ声がします。聞くと雪に覆われた大地のあちこちでも、あの「名も無き花の蕾」が地面から顔を出していると言うのです。
    そしてそれは少しずつ雪を溶かし、黒々とした地面が見えたかと思うと瞬く間に若草の絨毯が広がっていきました。
    王家の人々も国の民も皆思わず顔を綻ばせました。
    そしてその時、花から花へと飛ぶ様に舞う春告の王子の姿を確かに皆目にしました。春告の王子は確かに春を告げに来たのです。
    そして国の隅々まで春を告げ終わると、冬の王、秋の王妃、夏の王子そしてクロエの周りをくるりと舞って、優しく微笑み、そして消えて行きました。

    その後冬の王は全ての咎を一人で受けて亡くなった春告の王子を思い、そもそも季節を齎す力が災いの源であったとして、自らの季節を齎す力を人より以前からあったものに託す事にしました。
    秋の王妃と夏の王子もまた同じ気持ちでした。
    冬の王は風に、秋の王妃は木々に、夏の王子は太陽に、それぞれ力を託し、風と木々と太陽は役目を果たす事を約束してくれました。
    今となってはなぜ季節が齎されるのか誰もが気にも止めません。花が綻び始めたら春を感じ、日差しの強さで夏を思い、落ち葉を踏んで秋を聞き、風の冷たさで冬を知るのです。
    季節の王家もその後、幾世代にも渡り栄えますが、今は統治者として政を行います。季節を齎す力を返して以降、王家の庭は一度に全ての季節を備える力を失って、誰でも入れるようになり、今は美しい庭園として皆から愛されております。王冠に掲げられた雫を象ったダイヤの由来についても、今は詳しく知る者もありません。
    しかし毎年厳しい冬の終わりを告げるあの名も無き花はいつしか「クロッカス」と呼ばれる様になり、今なお人々から親しまれております。
    そして城の庭園に咲くクロッカスだけは他に咲く色とりどりのクロッカスとは違い、あの姫君の髪の色と同じ黒褐色の花を咲かせます。生きて結ばれることは叶わない二人でしたが、春を告げる花としてこれからも永遠に共に咲き続けるのです。(了)


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    • 2019.03.04 Monday
    • 01:27
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      コメント
      こんにちわ。
      楽しく読んでおりました。プロジェクションマッピングで花々が咲き乱れる中にスケーターが現れるのをイメージしながら。
      素敵でした。
      • 凸ママ
      • 2018/11/25 2:08 PM
      凸ママさん、コメントありがとうございます。
      思ったより長々と書く事になってしまったのに、お読み頂けてありがたいです。
      おっしゃる通り、昨年の氷艶を見なければ浮かばない話でした。プロジェクションマッピングの可能性はすごいですね。

      またよろしければいらしてください。
      • 真響
      • 2018/11/27 10:52 PM
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